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お知らせ
2020.07.27
[在学生・受験生] 読書の愉しみpart8~本学教員が在学生や受験生にお薦めの本を紹介します~

寺田寅彦『天災と国防』(講談社学術文庫2057)2011年6月、講談社

「国防」と聞くと軍事に関係する本かのように思われるけれど、本書の内容はそれではありません。日本は、もともと自然災害が多く、その発生が日本社会・市民生活の存亡にかかわりかねない歴史を都度繰り返しています。物理学者(東京帝大教授)であり文筆家(夏目漱石の弟子)でもある筆者寺田寅彦は、災害に見舞われても社会と生活を維持し守る(つまり、国防)ために、いくつかの随筆や学者としての震災調査報告の類の中で、平時日常から備えることの大切さを言い続けていました。誰でも一度は聞いたことがある「天災は忘れ(られ)た(る)頃(にやって)来る」は寺田の発言・警鐘ですが、それが最も端的に論じられているのが、本書後半の「津波と人間」かと思います。

地震や津浪(津波)を含めた自然は悠久の時を経て「過去の習慣に忠実」(いつかまた確実に繰り返される)である一方で、国民や行政は高々40年くらいで世代が変わる上に、建てられた「災害記念碑」すらも目先の市街地区改修などでやがて「どこの山蔭の竹藪の中に埋もれないとも限ら」ず、「脚下の安全なもの」(災害に関する知恵・知識)を知らずのうちに「棄てようとする」その心理が、単なる自然の(でも人間社会にとっては驚異的な)現象である地震や津浪「から災害を製造する原動力になる」と寺田は憂慮しています。“平穏な”世の中が基本未来永劫続く、あるいは人間は災害を防げると信じて疑わないのは、確かに願いではあるものの、しかし共同幻想以外何ものでもありません。「自然の方則は人間の力では枉(ま)げられない」のです。そのような非常時は、「いつだか分らないが、来ることは来るというだけは確かであ」り、「今からその時に備えるのが、肝要で」、その「唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう」と述べています。

地震国日本の未来を生きる若いみなさんだからこそ、寺田の冷静な科学者の観点を知ってもらいたいと考えます。

(社会福祉学部・鈴木 淳)

 

関根健夫・杉山真知子「ナースのためのマナー&接遇術」中央法規、2018年2月

マナーは人の心・社会を動かす潤滑油

 社会はルールだけで成り立っているわけではありません。「マナー」や「心配り」が社会をより円滑にしているのです。例えば、にこやかに挨拶をする、困っている人には声をかける、落ちているゴミは積極的に拾ってゴミ箱へ捨てるなど、自分に課せられた義務やルールではないけれど、自分以外の人やモノへの心配りが社会をよりよく形成しているのです。

 いくらルールを守っているからと言って、人にろくすっぽ挨拶をしない、常にムスッとしていて笑顔がない、呼んでも返事をしない、仕事をすればトラブルばかり起こし、自分の最低限の仕事が終わったらさっさと帰ってしまう、他人の仕事は自分から手伝おうとしない、そんな人がいたら、その人がいるだけで職場の雰囲気が悪くなるでしょう。

 マナーはルールに上乗せする「心配り」であり、他人との良好なふれあい、良好なコミュニケーションを生み出す能力です。人の心に届き、人の心を動かすのがマナーですから、言い換えれば社会を円滑に動かしているのは、ルールの上に乗ったマナーだといえるでしょう。更に突きつめると、人の心豊かにし、幸せを具現化する能力マナーだと筆者は確信しています。こうして考えると、ルールとは最低限の決まりです。もちろんルールも大切ですが、社会をよりよくしていく要素はマナー、心配りなのです。

(看護学部・佐藤充子)

 

三浦しをん『舟を編む』株式会社光文社、2011年9月

 みなさんは「右」を説明してくださいと言われたら、どう説明しますか。右には方向としての「右」と思想としての「右」が存在しますので、前者を説明する場合いかがでしょうか。「ペンや箸を使う手のほう」と言うと、左利きのひとを無視することになりますし、「心臓ないほう」と言っても、心臓が右側にあるひともいるそうですからね。「体を北に向けたとき、東にあたるほう」と説明するのが無難でしょうか。

 このように普段何気なく使っている言葉にも意味があり、その意味を表すには工夫が必要です。また言葉には無数の見出し語があり、時代とともに生き物のように変化をする可能性を秘めていることから、この本では言葉を「海」、辞書はその海を渡るヒントとなる「舟」にたとえています。その辞書を編纂する作業は、大海原を大勢の力で渡るように、大変多くの人(専門家、大学教員)が関わり、相当な時間(大きな辞書だと10年以上)かかるといわれます。また海外では、国家の威信をかけて辞書の編纂に力を入れている国があります。なぜなら、言葉にはヒトをまとめる力があるからです。全員が同じ方向を向いて物事をすすめていくには、全員が共通して理解できるツールつまり言葉が必要だからです。

 私たちリハビリテーション専門職は、言葉の理解や表出が困難となった方に、意思疎通を行いやすくなるように支援をする職業でもありますので、今一度この言葉の意味を考え直すことが大切だと考えます。さきほど質問しました「右」の表し方も、障害によって方向の理解が困難になった方に対しては、説明の工夫が必要です。この本には、その言葉の意味を表現する工夫、言葉が秘める力、言葉を学ぶ楽しみについて書かれています。大切な方に自分の考えていることを上手に伝えられるように、この機会に、一つ一つの言葉の意味を丁寧に考えてみませんか。

(リハビリテーション学部・宮寺亮輔)

 

ブレディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社、2019年6月

 この本は、ノンフィクション本大賞や本屋大賞2019を受賞して話題になったものです。皆さんも「読んだよ」という方がいらっしゃるかもしれません。

 表紙の扉をめくると「老人はすべてを信じる。中年はすべてを疑う。若者はすべてを知っている。子どもはすべてにぶち当たる。」という、これまで学校では習ったことがないような文章が書いてあります。

 日本人の母親とアイルランド人の父親をもつ、イギリスで生まれ育った男の子が中学校に入学してからの日常が書かれています。主な内容はアイデンティティ、人種、学校の規則、地域や家庭の経済格差問題等ですが、親子のコミュニケーションがとても活発でアクティビティなのです。親子の会話に自分も参加させてもらっている感覚になるのですが、「私ならどうするだろう?」「私ならなんと言うだろう?」と考えさせられる場面の連続でした。

 「多様性ってやつは、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」「楽じゃないものが、どうしていいの?」

 今の皆さんなら、彼の質問にどのように向き合いますか?皆さんとディスカッションしたいと思える作品です。

(看護学部・真田英子)

 

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会