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授業情報 LESSON

授業情報
2021.06.18
読書の愉しみpart3~本学教員がみなさんにお薦めの本を紹介します~

松原 始『カラスの教科書』講談社文庫、2016年3月  
 “事件”はゴミ収集日の朝に起きる。出がけにゴミを出しに回収場所へ行くと、そこには破れた袋から食品・日用品の空の容器が道の真ん中まで放り出されている(個人情報満載)。見なかったことにもできず遅刻を覚悟で片付けるが、毎回ではたまらない。“犯人”は、あのカラスである。
 著者はカラスをこよなく愛する動物行動学者であり、ほとんどがカラスの立場から書かれている。対象に深い愛情を注ぎ、時々してやられながらも一層傾倒する姿勢は、まさに研究者としての「あるべき姿」である。見習いたい。
 そして『教科書』から学んだ我が“事件”解決に寄与する事項を挙げると、次のとおりであった(参考にしていただきたい)。ゴミ袋の中の赤・オレンジ・茶色に反応する(肉・果実などの餌に見える):なるほど、視覚が発達しているので、美味しそうに見えるパッケージを狙ったのか。これからは、ゴミ袋の中身が識別できないようにしよう。/嗅覚が弱い:どうりで、ノラ猫除けの薬を撒いても効果がないと思った。/油脂系を好む(マヨネーズが大好き):そういえば、我が家の庭の流しに置いてあった固形石けん(成分に天然油脂を含む)が突如消えたことがあった。まさかとは思ったが、やはりカラスの仕業だったか。
 ゴミ荒らしの“犯人”を知るために落掌した『教科書』であったが、ベランダから針金ハンガーを持ってきて巣作りをする・見つけた餌がアイスキャンディーであっても落ち葉の下に隠すなど、カラスの行動(人間にとっては可笑しく、カラスにとっては必死)が次々に紹介され、これだけ笑えたのは僥倖としか言いようがない。
 傍(はた)からは滑稽に見えても当人(鳥)はきわめて真剣、このけなげさは「あるべき生き方」ではなかろうか。愛おしささえ感じる。
 今朝もまたカラスが信号機にとまって、運転席のこちらを見ている。青に変われば走り去っていくことを知っているから。余裕だなあ。

(社会福祉学部 山岸 裕美子)

 

小野春「母ふたりでかぞくはじめました。」講談社、2020年3月
 日本には、法律上の性別が同じカップルが結婚できるための法律がありません。そこで、日本に生活する同性カップル13組が、同性カップルが結婚できないことは憲法違反であること裁判所に判断してもらうため、2019年2月に訴訟を起こしました。(Marriage For All Japan HPより一部抜粋)
 私の友人である佐藤郁夫さん(2021.1.18逝去)は、この裁判の原告の一人でした。男性同性愛者である彼は、この裁判の審理において法廷でこう述べています。「私は病気を抱えており、寿命はあと10年あるかどうかだろうと覚悟しています。死ぬまでの間に、パートナーと法律的にきちんと結婚し、本当の意味での夫夫(ふうふ)になれれば、これに過ぎる喜びはありません。天国に逝くのは私の方が先だろうと思っていますが、最期の時は、お互いに夫夫となったパートナーの手を握って、『ありがとう。幸せだった。』と感謝をして天国に向かいたいのです。」残念ながら、佐藤さんのこの願いは叶いませんでした。
 本書は、同じく同性婚裁判原告の一人である小野春さんが、性的マイノリティ当事者(バイセクシュアル)としての人生を、リアルに、わかりやすく描いています。異性愛者との結婚生活、子育て、現在のパートナーとの出会いやご自身が病気になり入院した時の病院の対応など、法律上は結婚できない「ふたり」が「かぞく」を作りふつうに暮らしている現実を知ることができます。LGBTQやSOGIEといった言葉が認知されつつある現在であっても、私たち一人ひとりが自分のこととして考えなければならない課題を突き付けられたような気がしました。将来、教育、福祉、医療の現場で働くみなさんにぜひ手に取っていただきたい1冊です。

(看護学部 丸井 淑美)

 

大谷智通著 ひらのあすみイラスト『えげつないいきもの図鑑 恐ろしくもおもしろい寄生生物60』ナツメ社 2018年7月
 私達が何気なく平和に暮らしている日常の中、実は沢山の生物が他の様々な生物に寄生、感染、依存をして暮らしています。そしてそれらの生物は寄生や感染の機会を虎視眈々と狙っています。その寄生対象は虫や動物だけでなく、まさに我々人間を狙っているものも沢山います。
 そんな小さな生物たち、人間の体内に侵入しても何の危害をも与えないものもいますが、様々な症状をもたらすものもいます。何らかの症状をもたらす生物は「病原体」と呼ばれます。彼らは彼らなりに、生きていくために人間の内に入り込むわけですが、人間からすればたまったものではありません。
 世界には様々な感染症が蔓延っています。これまでに人間は沢山の寄生虫に甚大な犠牲を払ってきました。皆さんは「世界三大感染症」はご存知でしょうか?それは「AIDS、結核、マラリア」です。三大感染症のうち、AIDSはウイルスが、結核は細菌が、そしてマラリアは寄生虫(原虫)が原因となって起こる病気です。日本ではそこまでメジャーではなくても、世界では莫大な被害をもたらし続けている感染症が存在しているわけです。この本にはそんな感染症を引き起こす色々な「寄生虫」について、可愛いイラストをふんだんに用いて、ユーモアも含めて、人間のみならず昆虫や様々な動物を対象とするえげつない寄生虫達が紹介されています。
 また皆さんは「衛生仮説」というものをご存知でしょうか?昔々、あまり衣食住環境が清潔でなかった時代には、花粉症などのアレルギー疾患はそれ程多くはなかった、しかし昔と違って衛生環境の整った現代には花粉症や食物アレルギー疾患が増えてしまった、というものです。例えば、おしりがかゆくて眠れない、日中機嫌が悪い―これは典型的な「蟯(ぎょう)虫症」の症状です。昔は日本国内でもポピュラーだったものの、今では滅多にみられなくなりました。かつて行われていたお尻にセロハンを貼る検査も、今では実施されていません。それくらい、我が国では寄生虫症は少なくなりました。果たして衛生仮説が正しいかどうかは現状定かではありませんが、統計学的にこの仮説を支持しない積極的理由はないかもしれません。そこには寄生虫も何らかの形で影響を与えていた可能性は高いです。
 普段耳にしない、聞き慣れない病原体は沢山あると思いますが、本学部に入学した暁にはそれらについて詳しく学修します。この本ではそんなえげつない寄生虫たちの一部に触れることができます。もしも貴方がこの本を書店で見つけたら、そっと手にとってみるのも面白いかもしれません。そこには貴方の知らない「えげつない」世界が広がっていますよ。

(医療技術学部 菅野 佳之)

 

柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活(1)~(10)』
(小学館)2014年9月~2021年3月
 吉岡里帆が主人公の“義経えみる”を演じた同タイトルのテレビドラマが2018年に放映されました。テレビドラマにありがちな誇張や過剰な演出はなく、良質なドラマでした。その原作です。週刊スピリッツに連載中(2021.5.24現在)のマンガです。
 主人公の義経は福祉事務所のケースワーカー(ソーシャルワーカー)です。扱っているテーマをキーワードにして並べてみます。
 生活困窮、生活保護、多重債務、扶養照会、DV、アルコール依存症、子どもの貧困、シングルマザー、ネグレクト、貧困ビジネス、住まいの貧困、コロナ禍・・・
 これらのキーワードは、全てソーシャルワーク(相談支援)の対象となります。ソーシャルワークの根幹は人権と社会正義です。本書でそのことを前面に打ち出しているわけではないのですが、読み進めていくうちに、何となく理解出来てくるから不思議です。
 タイトルの「健康で文化的な最低限度の生活」が秀逸です。

(短期大学部 柳澤 充)

 

芥川龍之介「桃太郎」(『芥川龍之介全集第11巻』所収、岩波書店、1996年9月
 桃太郎の鬼退治を知らない人は先ず皆無でしょう。しかし、昔話「桃太郎」の内容を疑問視する者が多数存在したことを知っている人は少ないでしょう。芥川「桃太郎」は、昔話「桃太郎」の内容に疑問を持ち、鬼の立場から桃太郎を捉えた作品です。芥川は何故昔話「桃太郎」に疑問を持ったのでしょうか。話は「桃太郎」が発表された大正13(1924)年から3年前の中国旅行時まで遡ります。
 大正10(1921)年4月26日、芥川は上海で章炳麟という中国人と会見します。章炳麟(1869~1936)は、当時の中国を代表する中国古典を専門とする学者です。のみならず、中華民国建国の父である孫文とともに辛亥革命を牽引した革命家でもあったのです。いわば当時にあっても大物中の大物です。その章炳麟が芥川に「予の最も嫌悪する日本人は鬼が島を征伐した桃太郎である。桃太郎を愛する日本国民にも多少の反感を抱かざるを得ない」(芥川「僻見」)と言っているのです。章炳麟は昔話「桃太郎」に当時の日本の中国政策、海外拡張政策―要するに、帝国主義―を嗅ぎ取っていたのです。(芥川の中国旅行記『芥川竜之介紀行文集』岩波文庫、2017年8月は、去年の「読書の愉しみ」で紹介済みです。興味を持たれた方は「過去のお知らせ」からご覧ください。)
 芥川在世中の日本は中国に対し拡張政策に進んでいく真最中でした。(その頂点が「満洲事変」です)芥川が「桃太郎」を執筆した背景の一つに、章炳麟のこの発言が念頭にあったのです。
 中学校「特別の教科 道徳」の教科書(光村図書)にも、昔話桃太郎を題材にして「相互理解、寛容」を促す項目があります。相手の立場をも思いやれる、真の「めでたし、めでたし」とは何か。芥川「桃太郎」は改めて考えさせられます。

(社会福祉学部 岡野 康幸)

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