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授業情報 LESSON

授業情報
2021.06.25
読書の愉しみpart4~本学教員がみなさんにお薦めの本を紹介します~

津曲裕次『鳩が飛び立つ日「石井筆子」読本』大空社、2016年3月
 石井筆子さん(以下筆子さんと略記)を中学校の道徳の授業で知った人もいるかもしれませんが、一般的にはあまり馴染みのない人です。しかし、明治初期から終戦前まで①国際人としての活躍(鹿鳴館などでの通訳者)、②女子教育の発展、③女性の地位向上、④知的障害児者の教育・福祉への先駆者的働きに尽力した多彩な顔をもつ人物です。
 本書は筆子さんの生涯を、幼小時代、女子教育時代、特別支援教育・福祉時代の第一部、“石井筆子”研究の流れの第二部、石井筆子の著作と資料の三部構成になっています。この一冊で筆子さんの歩みが豊富な写真と共に優しい語り口調で伝えられています。
 筆子さんは明治初期の最初の女学校で一期生として近代的女子教育を受け、ヨーロッパに留学して西欧の生活を体験した数少ない女性の一人でした。帰国後、結婚し主婦であり、障害児の母でありながら、華族女学校での教育や女子の中等教育を普及させるための大日本婦人教育の創設など日本の女子教育の確立に貢献しました。津田塾大学の創設者で有名な津田梅子さんとは友人で、筆子さんは津田塾の創設にも関わっています。夫と死別後は、日本で最初の知的障害児施設・滝乃川学園の創設者である石井亮一氏と再婚し施設の経営や実践を助け、亮一氏亡き後も知的障害児の教育に生涯を捧げました。
 彼女の生涯は「筆子・その愛~天使のピアノ~」として映画化もされています。このピアノは滝乃川学園の一室にほこりまみれで廃物同然においてあったそうです。しかし、実は国内最古級のもので、これまで記録でしか知ることのできなかった「幻のピアノ」だそうです。このピアノを通して筆子さんの生涯に一般の人も感心をもつことになりました。
 この本は筆子さんの物語が文科省の中学校道徳の読本資料集に「石井筆子 鳩が飛び立つ日」として掲載されたことをきっかけに刊行されました。著者の津曲裕次氏は、障害児・福祉史の第一人者であり、昭和40年代から注目をあびるようになった筆子さんの研究を長年重ねてこられました。道徳に取り上げられたことを喜びながら、正しい情報を伝えようとわかりやすく筆子さんの生涯が紹介されています。
 女性の社会参画、自立、教育・福祉に関心のある人には勿論、これまで関心のなかった人には関心をもってもらいたく、是非とも読んでいただきたい一冊です。国際人としての筆子さんを描いた、長島要一『明治の国際人・石井筆子: デンマーク女性ヨハンネ・ミュンターとの交流 』2014年9月、筆子〝ブーム〟到来ともいえる、眞杉章『天使のピアノ―石井筆子の生涯』2000年12月 を一緒に読む事をお勧めします。

(社会福祉学部 江原 京子)

 

ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳『モモ』岩波少年文庫、2005年6月
 町はずれの円形劇場あとに住む不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。物語はある日、町に灰色の男たちが現われてから、すべてが変わりはじめます。「時間貯蓄銀行」からやって来た彼らの目的は、人間の時間を盗むこと。人々は時間を節約するため、せかせかと生活をするようになり、人生を楽しむことを忘れてしまいます。すべての人間が平等に持っている時間。でも、新型コロナウイルスは、知らないあいだにあなたの時間を盗んでいるのかも・・・・? 
 コロナ禍をとおして私たちはこれまでにない様々な経験をしています。そこから何を学んだのでしょうか?オンライン授業やzoomの中でのデスカッション、ソーシャルメディアで繋がることなど便利になった反面、学校へ行って何気なく友達と会話する、人と人とが対面で話すことの大切さや、今まで普通にできることが、できないことへの苛立ち等々。この物語を読み終えたとき、自分が大事にしているものや、自分を守り成長させてくれるものは何なのか。気づかせてくれることと思います。

(看護学部 奥野 みどり)

 

前田海音『二平方メートルの世界で』小学館、2021年4月
 この本は、札幌の小学5年生前田海音さんが3年生の時に書いた作文をもとに作られた絵本です。海音さんは、脳神経の難病の治療のため3歳の頃から入退院を繰り返しているそうです。縦約二メートル、幅約一メートルのベッドで過ごす毎日、すなわち二平方メートルの世界が海音さんの入院中の全てだそうです。
 入院によって家族の住まいがバラバラになり、一人で過ごさなければならない兄を気遣う海音さん、検査結果が分かるまで一人で孤独に耐える海音さん、検査をする度に「奇跡が起こるかも」と期待してしまう海音さん、切実な思いが綴られています。
 ある日、いつもと頭の向きを逆にしてベッドの上に寝てみるとオーバーテーブルの裏に寄せ書きの言葉を見つけたそうです。会ったことのない人どうし沢山の誰かが確かにここにいて一人じゃないよと語りかけてくれている。泣かないと決めていた海音さんの目に涙が溢れたそうです。
 当たり前にできていたことが制限され、窮屈に思うことが多い世の中となりましたが、海音さんのように二平方メートルの世界で今日も頑張っている人達がいることを忘れてはいけないと思います。そして、新型コロナウイルスの治療のために最前線で命と向き合っている医療従事者がいることも忘れてはならないと思います。普通に食べて、笑って、学んで、遊んで、何気ない日常が愛おしく感じられるこの時を大切に過ごしたいと思えるような一冊です。

(リハビリテ-ション学部 柴 ひとみ)

 

山中伸弥・緑慎也『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』
講談社 2012年10月
 およそ10年前の2012年、京都大学の山中伸弥教授が「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞され大きな話題となりました。いわゆるiPS細胞の樹立成功とのことでの受賞であり、この発見は現在までに医学研究に大きな進歩をもたらしてきました。
 そんな山中教授ですが、決して順風満帆な人生であったわけではないようです。研修医として勤めていた整形外科医時代は、指導医から「ジャマナカ」と呼ばれ、手術もあまり上手い方ではなかったそうです。そんな中、どんな名医でも治せない患者さんとの出会いを通して基礎研究の重要さを感じ、山中教授は研究への道を歩み始めます。
 国内外で基礎医学の研究に打ち込み、様々な人たちとの出会いを通して研究者として大きく才能を開花させていきます。多くの実験を行う中で、予想外の驚く結果を目の当たりにしつつも、ついにはiPS細胞樹立の可能性を見出します。
 山中教授はiPS細胞樹立までに部下や大学院生など多くの人の助けによりこの偉業を成し遂げました。これは山中教授の研究に対する思いや人柄が、多くの人々を魅了するものであったからではないでしょうか。
 「人間万事塞翁が馬」という言葉が山中教授の好きな言葉の一つだそうです。人生における幸・不幸は予測できないことをあらわす故事です。どんな逆境の中でも努力を続け、順調なときでもその状況に慢心しない。山中教授のご経験から自分の人生を見つめ直すのにオススメの一冊です。

(医療技術学部 増田 裕太)

 

小国士朗『注文をまちがえる料理店』あさ出版、2017年11月
 レストランで注文をまちがえるなんて、と思うかもしれません。皆さんならどう思いますか。このレストランで働いているのは認知症の方々なのです。
 認知症になると、新しいことを覚えられなかったり、覚えたことを忘れてしまったり、注文を取って、注文を受けた人の所に食事を届けることも難しくなってしまいます。
 ハンバーグを頼んだのに、出てきたのが餃子だったら、私はハンバーグが食べたかったのにまちがえている、と思うでしょう。でももし食べてみて美味しかったら…、ああハンバーグにしなくて良かったな、と思うかもしれないですよね。
 ハンバーグが食べたかったけれど、餃子も美味しかったな、そんな風に思うだけで、その場のみんなが笑顔になれるかもしれません。
 そこで働く方々は注文をまちがえることがあります。でもそれ以上の魅力や、満足感がこの本からは伝わってきます。
 本書の中には、このレストランの成り立ちから、働いている人、お客さんのあたたかくて、勇気づけられるようなエピソードなどが沢山載っています。
 認知症になっても生き生き働いて、お客さんも注文をまちがえることを受け入れて、まちがえることを楽しんでいる。普通ならあり得ないと思うかもしれませんが、みなさんも少し優しい気持ちを持って読んでみたら、思いもよらない“餃子”に出会えるかもしれません。

(短期大学部 辻󠄀 志帆)

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会