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お知らせ
2022.09.08
読書の愉しみpart14~本学教員がみなさんにお薦めの本を紹介します~

西 智弘編著『社会的処方-孤立という病を地域のつながりで治す方法』

学芸出版社、2020年2月

 日本は、社会参加の頻度や人との付き合いが先進諸国の中でも低いことが指摘されており、社会的孤立度の高い国である。社会的孤立は健康に対して大きな影響を与えることがわかっており、社会問題化している。こうした中、タイトルにある「社会的処方」という言葉に希望を感じ、本書を手にとった。

 「社会的処方」は薬のように、社会とのつながりを“処方”することである。市民活動のひとつひとつが誰かにとっての「薬」になるという考え方や仕組みであり、イギリスにおいて1980年頃から取り組みが始まっているという。クリニックを訪れる患者の問題の中には、医療的な悩みではなく、孤立が原因であるものも多くみられ、「社会的処方」により、家庭医の負担軽減も図られているという。イギリスにおいて「社会的処方」は、医師だけではなく看護師やソーシャルワーカー、薬剤師等が行うこともあるが、それらの専門職が必ずしも「処方先」であるコミュニティグループに関する情報を持っているわけではないので、「リンクワーカー」と呼ばれる職種が患者と地域活動をマッチングさせる活動をしているという。

 「社会的処方」だけで社会的孤立の問題が解決できるわけではないが、この仕組みは既存の医療の枠組みでは解決が難しい問題への対応策のひとつとして有効であろう。日本もイギリスの取り組みからヒントを得ることができるかもしれない。

 本書では、イギリスの「社会的処方」の事例だけではなく、日本各地で実践されている「知る人ぞ知る」資源、希望を持てる多くの事例が紹介されている。本書をきっかけに、自分の暮らす地域にある「社会的処方の“タネ”」を探してみたくなるだろう。

(社会福祉学部 安留 孝子)

 

土地 邦彦『ゆっくりねろし いのち輝く 玉穂ふれあい診療所 ホスピスの記録』

かもがわ出版、2009年1月

 以前、自分自身が看護師として働いていた時、多忙な業務の中で一人一人の患者様の心身に丁寧に寄り添うことと、組織の看護師としての役割に悩んだ時期がありました。

 臨床を離れ、教育現場で働く中で著者の講演会に参加し、この本に出合いました。命の終わりに向き合う患者様やそのご家族に対し、組織や職種の枠に縛られず、人として一人一人の患者様の命に正面から向き合い、命の輝きをより煌めかせるような望みを引き出し、その実現に向けて職員が総力を挙げて叶えています。望みが叶うことで更なる望みが出るので、職員はそれを引き出し、その実現に向けて努力しています。そしてその望みを持つ心身を支え、見守ります。この診療所の職員、ボランティアの方々一人一人の心の持ちようや具体的な取り組み、患者様との関りが本当に素晴らしいのです。涙なしには読めないエピソードも多く、読み終えると、自分の中で命に寄り添うことの意味が明確になり、自身の今までの看護にも自信が持てるようになりました。

 医療・福祉の学習の中で、自分の選択が間違ったのではないかと悩むことも多いと思います。そんな時、命の輝きを一緒に見守れる貴重な時間を過ごせる仕事のすばらしさを感じられるこの本を、ぜひ手に取っていただきたいと思います。

(看護学部 小島 優子)

 

森鷗外『高瀬舟』、集英社、1992年9月

 皆さんは若い時に何らかの理由のために途中で読むのをやめてしまった本を大人になって読み直した経験をお持ちでしょうか。私にとって『高瀬舟』はその一つです。

 本作は弟殺しの罪で島流しになった罪人が罪人らしからぬ晴れやかな顔をしていることを不思議に思った護送役と罪人のやり取りをもとにした作品です。この作品は、島流しという状況にあってもこれまでの生活苦の境遇に比べれば慈悲にも思えるような環境であると満足する罪人の『知足』と、病気で働けなくなった弟が兄の負担になっていることを苦にして起こした自殺未遂に対して兄が自殺を幇助することで弟を楽にしたという事実に基づく『安楽死』の二つがテーマであるといわれています。医療福祉の観点から考えると、この作品は①安楽死のための自殺幇助の是非とともに、②介護による生活困窮の問題が興味を引くところでしょうか。後者には現在問題になっているワーキングプアやヤングケアラーが挙げられます。

 私は高校生の時分この作品に触れましたが、喉を切る描写で気分が悪くなってしまい最後まで読むことができませんでした(鷗外が医師であったためか描写が生々しかった)。そして、侵襲的なことに耐性のないことが分かったことが私の進路に大きな影響を与えることとなりました(詳細は割愛します)。しかし、十年ほど前に友人と木屋町に食事に行ったとき、傍らを流れる高瀬川を見てこの作品を思い出したので思い出して読み直しました。この時は無事読み終えることができ、高校生の時には気づかなかったであろうことにも考えを巡らせることができました。

本作は教科書にも採用されるほど有名な作品ですが、医療福祉を志す高校生の皆様には医療福祉の問題を考える契機となると思います。また、医療福祉系の大学生の皆様には自分が専門教育で知識を得た状態でこの作品を読み直してみていただくと、高校生の時とはまた違った見方ができるかもしれません。是非ご高覧ください。

(医療技術学部 時田 佳治)