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お知らせ
2022.11.14
読書の愉しみpart21~本学教員がみなさんにお薦めの本を紹介します~

V.E.フランクル著 霜山徳爾訳『夜と霧~ドイツ強制収容所の体験記録~』みすず書房、

新装版1985年1月、

 本書が、読者に提供するものは、自らユダヤ人としてアウシュビッツ収容所に囚われ、奇蹟的に生還したフランクル教授の「強制収容所における一心理学者の体験」ですが、これは著者も自ら言われる通り限界状況における人間の姿を理解しようとするもので、その叙述には、より深い人間知が滲み出ています。

 この体験記では、直接に体験したものの立場(体験の当事者)からの「内部からみられた」強制収容所が語られます。このような状況下でも、強制収容所において典型的な「収容所囚人」になるか、あるいは、ここでもなお人間としてとどまり、人間としての尊厳を守る一人の人間になるかという決断を迫られる、とフランクルは語っています。

 創造的で活動的生活や、美の体験、自然の体験の中に充足される享受する生活が意義をもつばかりでなく、創造的な価値や体験的な価値を実現化する機会がほとんどないような生活(例えば、強制収容所)でも意義をもっているのです。それは、つまり、人間が全く外部から強制された存在のこの制限に対して、いかなる態度をとるかという点において現れます(フランクル)。創造的及び享受的生活とは、囚人には閉ざされています。しかし、生命そのものが一つの意味を持っているなら、苦悩もまた一つの意味を持っている、とフランクルは考えます。

 苦悩が生命に何らかの形で属しているならば、また運命も死もそうであり、苦難と死は人間の実存を初めて一つの全体にするのです(フランクルの言葉)。

 本書の一心理学者の経験は、強制収容所での体験ですが、これは、本人の意思を尊重しない強制医療を展開してきた日本の精神医療と通ずるものがあります。人がこのような境遇に置かれたとき、いかに生きるかという点は、おおいに学ぶべきものがあります。

是非、本書に触れて、人間の生命、尊厳、苦悩、運命といったものを体感してほしいと思います。

(社会福祉学部 山口 大輔)

 

松村啓史 『ナイチンゲールに学ぶときめきの経営学』メディカ出版、2007年5月

 この書籍は「価値ある事業は、ささやかな、人知れぬ出発、地道な労苦、向上を目指す無言の、地道な苦闘といった風土のうちで、真に発展し、開花する」というナイチンゲールの言葉から始まります。書籍の至る所にナイチンゲールの言葉が紹介されている点も、本書の魅力で面白い点です。

 「経営」という言葉に皆さんはどのようなイメージをもつでしょうか。私は「経営」には「利益の追求」がイメージとしてありましたが、広辞苑では「利益」という言葉は出てこず、経営とは「変化に対応して生き延び、永続性や継続性を維持すること」と書かれています。もしも病院が無くなってしまうと、一番困るのは患者さんですが、私たち看護職も職場を失ってしまい困ります。現実的に利益も重要である点も記されていますが、組織を永続させるための視点が、ナイチンゲールの活躍を基に紹介されています。

 また、ナイチンゲールは「白衣の天使」とも呼ばれていますが、統計学者であることも有名です。ナイチンゲールの名前が歴史に残るきっかけになったのは、クリミア戦争(1853~1856年)時、イギリス野戦病院での活躍です。ナイチンゲールの率いる看護団到着当時の死亡率は42.7%もありましたが、その数カ月後には2.7%まで下がったと記されています。ナイチンゲールは統計学に加えて、他者へ効果的に情報を伝えるプレゼンテーション能力にも優れていたそうです。1858年に発表された「鳥のトサカ」「鶏頭図」と呼ばれる円グラフの一種は、ナイチンゲールが考案した最も有名な統計図表です。

 本書はナイチンゲールの活躍や経営の視点加えて、「効果的なプレゼンテーションの方法」も載っています。看護・教育・研究に携わる私たち教員にとっても役立ちますし、これからそれらを学ぶ学生さんにとっても大変魅力的な内容になっていると思います。

(看護学部 及川 洋)

 

ファイマン著、宮島龍興訳『ファイマン物理学Ⅲ(電磁気学)』岩波書店、1986年1月

   「私を救った一冊の本」

 私の学生時代の難関科目は「電磁気学」であった。まず、マックスウエルの4つの微分方程式が理解できない。それまで習ったことのない3次元ベクトルの演算が述べられている。これらの方程式は、高校時代に習った、ガウスの法則、アンペールの法則、ファラデーの法則をそれぞれ一つのシンプルで美しい式で表現している。定期試験で数名しか合格できない難問であったため、私は数名の先生に師事し教科書を5冊も勉強する羽目になった。その5冊目の本がファイマンの物理学であった。微分方程式を分かり易く図解していたのである。数式で表現されているうちは「理学」、図で表現されて初めて「工学」と思っていた私には衝撃であった。

 ファイマンは、当時カリフォルニア工科大学の教授であり、1~2年次生の教養物理を担当しており、「力学」、「光・熱・波動」、「電磁気学」、「電磁波と物性」、「量子力学」の講義ノートを5分冊にして発刊したものであった。1965年に朝永氏と共に量子電磁力学でノーベル物理学賞を受賞しており、日本の学会に参加したおりには日本語を片言で話し、日本旅館に宿泊した日本好きでもあった。

 私はこの本に救われて単位を無事取得し、大学院まで修了することができた。就職先の電電公社武蔵野電気通信研究所での最初の研究テーマが、「マックスウエルの方程式による電磁界解析」であり、現在まで同じテーマでこられたのもファイマン先生のおかげである。ちなみに、医用電気工学Ⅱの1章で「マックスウエルの方程式」を10月に分かり易く(?)講義できたのもファイマン先生のおかげである。

(医療技術学部 木島 均)